高山・亜高山帯における生態系の脆弱性評価
(背景)
「地球温暖化とコケ」でも少し触れましたが、亜高山~高山帯は温暖化に最も脆弱な生態系の一つであり、保全への取り組みが急務となっています。しかし、その保全や多様性の解明については、あまり研究が進んでいないのが現状です。
(目的)
そこで、中部山岳地域(八ヶ岳)を調査地にして、(1)維管束植物と比較してコケ植物の多様性が標高傾度に応じてどのように変化するかその特性を解明し、(2)温暖化がコケの多様性やその生態系機能にどのような影響を与えるか、検討しました。
(結果)
低山帯~高山帯へと標高にそって、木本・草本・コケ植物の種数・被度の変化はそれぞれ異なる傾向を示しました。コケに着目すると、コケの種数・被度は標高があがるにつれて高くなって亜高山帯(標高2400m前後)で最大になり、その後、緩やかに下がる傾向がみられました。
(考察)
「標高傾度に沿った種多様性」がコケと他の植物間で異なった主な理由として、コケの分布には空中湿度が強く関わっていることが挙げれらます。森林が発達し、霧が発生しやすい亜高山帯は湿度が高く、コケの多様性を高めているようです。
さらに、湿度環境に恵まれた亜高山帯には低山帯・高山帯に分布する種が両方ともみられる傾向が強く(Boundary effect)、この傾向もコケの多様性を高める要因になっていると考えられました。
(重要な成果)
以上の結果より、亜高山帯の豊かなコケ多様性は、「気温」「湿度」の双方の影響を強く受け、成立していることが分かりました。一部の気候変動モデルでは、温暖化が進行すると、気温が上昇するとともに、湿度も低下すると予想されています。そのため、2つの環境要因の兼ね合いによって維持されている亜高山帯のコケは、温暖化の影響に大変脆弱であると推察されます。
コケの多い林床では、コケが森林のリンの蓄積の約75%を担っていることなどが報告されています。前述の「温暖化実験」の結果とあわせて考えると、温暖化に伴うコケの劣化によって、森林生態系の栄養塩類の循環を大きく変化してしまうことが危惧されます。
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